私たち鍵の専門業者は、日々、お客様からの様々な鍵に関するご相談に対応しています。その中でも、「元鍵がないのですが、合鍵を作れませんか?」というお問い合わせは少なくありません。お気持ちは痛いほど分かるのですが、原則としてお断りさせていただくか、別の方法をご提案させていただくことがほとんどです。なぜ、プロの立場から元鍵なしの合鍵作成を推奨しないのか、その理由を詳しくご説明させてください。第一に、精度の問題です。先にも述べた通り、合鍵は元鍵を精密にコピーすることで作られます。元鍵という正確な「見本」がなければ、どんなに熟練した技術者であっても、完璧なコピーを作ることは極めて困難です。鍵穴(シリンダー)は非常に精密な構造をしており、わずかコンマ数ミリの誤差が、鍵の動作不良やシリンダー内部の損傷につながる可能性があります。お客様に不確実なもの、あるいはリスクのあるものを提供するわけにはいきません。第二に、シリンダーの状態を考慮できない点です。長年使用されている鍵とシリンダーは、摩耗によって微妙に変形していることがあります。元鍵があれば、その摩耗具合もある程度反映されたコピーが作られますが、元鍵がない状態で、例えば鍵番号から新品の純正キーを作成した場合、摩耗したシリンダーには適合せず、うまく回らない、あるいはシリンダーをさらに傷めてしまう可能性があるのです。鍵穴から形状を読み取って作成する場合も、内部の摩耗までは正確に把握できません。第三に、そして最も重要なのが、防犯上の問題です。もし元鍵なしで簡単に合鍵が作れてしまう社会であれば、どうなるでしょうか?盗難された鍵の情報から、あるいは捨てられた古い鍵から、いとも簡単に合鍵が複製され、空き巣や車両盗難などの犯罪に悪用されるリスクが飛躍的に高まります。鍵屋は、お客様の財産と安全を守る社会的責任を負っています。そのため、安易な合鍵作成に応じることはできないのです。もちろん、お客様が本当にお困りであることは理解しています。だからこそ、私たちは鍵開けや鍵交換、メーカーへの純正キー注文の代行など、安全かつ確実な代替策をご提案させていただくのです。ご理解いただけますと幸いです。