あれは忘れもしない、ある金曜日の夜のことでした。仕事で疲れ果て、ようやく最寄り駅に着いた私は、いつものようにマンションのエントランスに向かいました。オートロックのリーダーにカードキーをかざそうとして、ポケットを探った瞬間、全身の血の気が引くのを感じました。ない。どこにも、ないのです。いつも入れているはずのジャケットの内ポケットにも、カバンの定位置にも、カードキーの感触がありません。一瞬、何かの間違いかと思いましたが、何度探っても結果は同じ。冷や汗が背中を伝うのを感じながら、私はパニックに陥りかけました。とりあえず落ち着こうと、駅からの道をもう一度ゆっくり引き返してみることにしました。街灯の下、地面を凝視しながら歩きましたが、小さなカードキーが見つかるはずもありません。途中、立ち寄ったコンビニの店員さんにも尋ねましたが、届けられてはいないとのこと。時間はすでに夜の十時を回っています。管理会社の緊急連絡先は…？慌ててスマートフォンの連絡先を探しますが、こういう時に限ってなかなか見つからないものです。ようやく番号を見つけ出し、震える手で電話をかけました。事情を説明すると、電話口の担当者は意外にも落ち着いた声で、「まずは落ち着いてください。今から緊急対応の者を手配しますので、エントランスでお待ちいただけますか」と言ってくれました。その言葉に少しだけ安堵し、私は再びマンションのエントランスへ。待つこと約三十分、作業員の方が到着しました。身分証明書を提示し、状況を説明すると、特殊な方法でオートロックを解除し、まずはマンション内へ。そして、玄関のドアも開けてもらい、ようやく自分の部屋に入ることができました。しかし、問題は解決したわけではありません。紛失したカードキーは無効化してもらう必要があり、新しいカードキーの再発行手続きも必要です。翌日、改めて管理会社に連絡を取り、再発行の手続きと費用の説明を受けました。カードキーの再発行費用と、昨晩の緊急対応費用で、結局二万円以上の痛い出費となりました。何より、紛失したことによる不安と、関係各所に迷惑をかけてしまった申し訳なさで、精神的にもかなり消耗しました。この一件以来、私はカードキーの管理方法を改めました。必ずカバンの特定のポケットに入れ、外出時や帰宅時には指差し確認をするようにしています。