鍵が鍵穴の中で折れてしまった時、焦りからついやってしまいがちな行動が、実は状況をさらに悪化させる原因になることがあります。折れた鍵の破片を安全に取り出すためには、いくつかの「やってはいけないこと」を理解しておくことが非常に重要です。まず絶対に避けるべきなのは、針金やヘアピン、クリップといった、手近にある細いものを鍵穴に無理やり差し込んで、折れた鍵の破片をかき出そうとすることです。これらの道具は鍵抜き専用に作られていないため、先端が鋭利でなかったり、強度が足りなかったりします。無理に奥まで押し込むと、鍵の破片をさらに奥へと押し込んでしまい、取り出しを困難にするだけでなく、鍵穴内部の精密な部品(ピンタンブラーなど)を傷つけてしまう可能性が非常に高いのです。シリンダー内部が損傷すると、たとえ折れた鍵を取り出せたとしても、正常に鍵が機能しなくなり、結局シリンダーごと交換しなければならなくなるケースも少なくありません。次に注意したいのが、接着剤の使用です。折れた鍵の断面に瞬間接着剤などを塗り、鍵穴に残った破片とくっつけて引き抜こうというアイデアですが、これも極めてリスクの高い行為です。接着剤が少しでも鍵穴内部の隙間に流れ込んでしまうと、内部の部品が固着し、鍵穴が完全に機能しなくなってしまいます。こうなると、鍵屋さんに依頼しても、多くの場合、鍵穴を破壊して開けるしか方法がなくなり、修理費用が高額になる可能性が高まります。接着剤の使用は、成功例も報告されてはいますが、失敗した時のリスクが大きすぎるため、基本的には避けるべきです。また、鍵穴に潤滑剤などを注入するのも推奨されません。潤滑剤によって一時的に滑りが良くなったとしても、鍵の破片が奥に入りやすくなるだけで、根本的な解決にはなりません。むしろ、鍵穴内部にホコリやゴミが付着しやすくなり、将来的な鍵の不具合を引き起こす原因にもなりかねません。折れた鍵を取り出す際は、とにかく「無理をしない」「余計なことをしない」という原則を守ることが大切です。ピンセットなどで簡単につまみ出せる状態でない限りは、下手に自分で対処しようとせず、速やかにプロの鍵屋さんに依頼するのが最も安全で確実な方法です。焦る気持ちは分かりますが、状況を悪化させないための冷静な判断が、最終的な解決への近道となるのです。