「キーフリーが効かなくなった、という相談は、ここ数年で本当に増えましたね」と、長年自動車整備に携わるベテラン整備士の田中さん(仮名)は語ります。キーフリーシステム、いわゆるスマートエントリー&スタートシステムは、今や多くの車種で標準装備となり、私たちのカーライフに欠かせない便利な機能となりました。しかし、その普及に伴い、故障に関するトラブルも増加傾向にあると言います。「原因で一番多いのは、やっぱりスマートキーの電池切れです。これはユーザーさん自身で交換できる場合がほとんどですが、意外と交換方法を知らなかったり、予備の電池を持っていなかったりする方が多いですね。電池交換だけで直るなら、それが一番安上がりで簡単なのですが」と田中さん。しかし、問題はそれだけではありません。「次に多いのが、スマートキー本体の故障。水没させたり、落として強い衝撃を与えたりすると、内部の基盤がダメになることがあります。洗濯機で一緒に洗ってしまった、なんて話もよく聞きますよ。こうなると、キー自体の交換が必要になり、費用も数万円単位になることが多いです。」さらに、車両側の問題も無視できないと指摘します。「ドアハンドルに内蔵されているリクエストスイッチの故障や、車内外に設置されている検知アンテナの不具合もよくあります。特にアンテナは、車の前後左右、室内に複数設置されているので、どれか一つでも故障すると、キーを認識しなくなったり、認識範囲が極端に狭くなったりします。診断機でどのアンテナが異常か特定できますが、修理にはバンパーや内装の脱着が必要になることもあり、時間も費用もかかりますね」また、稀なケースとして、車両のコンピューター(ECU)の不具合や、配線の接触不良なども考えられるそうです。「電気系統のトラブルは原因特定が難しいこともあります。特に、後付けの電装品などが影響している場合もありますね。」田中さんは、キーフリー故障を防ぐためのアドバイスとして、まずスマートキーの丁寧な取り扱いを挙げます。最後に、田中さんはこう付け加えました。「キーフリーは便利ですが、あくまで電子機器です。いつかは故障する可能性があるということを念頭に置き、万が一の時のためにメカニカルキーの場所や使い方を把握しておくことが大切です。慌てず、まずは電池交換を試してみて、それでもダメなら我々のようなプロにご相談ください」。