「ピッキングツールなどの、鍵開け専用の道具を、持っているだけで、逮捕されてしまうのだろうか」。これは、鍵の仕組みに興味を持つ人や、あるいは、自分の家の、万が一の緊急事態に備えたい、と考える人が、抱く、素朴な、しかし重要な疑問です。結論から言えば、正当な理由なく、これらの「特殊開錠用具」を、隠して携帯する行為は、「特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律(通称:ピッキング防止法)」によって、明確に禁止されており、違反した場合は、一年以下の懲役、または、五十万円以下の罰金という、重い罰則が科せられます。この法律で、所持が規制されている「特殊開錠用具」とは、具体的に、ピッキングに用いる「ピック」や「テンションツール」、そして、シリンダーを破壊するための「シリンダー回し」などを指します。重要なのは、「業務その他正当な理由」がないにも関わらず、これらの道具を、「隠して携帯」している、という点が、犯罪の構成要件となることです。ここで言う「業務その他正当な理由」とは、例えば、鍵屋(錠前技師)が、仕事のために、これらの道具を、専用の工具箱に入れて持ち歩く場合や、あるいは、錠前の研究者が、研究目的で所持する場合などが、これにあたります。一般の人が、「自分の家の鍵が開かなくなった時のために、護身用として」といった理由で、ポケットや、カバンの中に、ピッキングツールを忍ばせて持ち歩くことは、残念ながら、「正当な理由」とは認められません。たとえ、一度も、それを使ったことがなくても、その所持自体が、犯罪の「予備行為」と見なされる可能性があるのです。また、インターネット通販などで、海外から、これらの道具を、安易に購入することも、非常に危険です。税関で差し止められたり、あらぬ疑いをかけられたりする、リスクが伴います。鍵開けの道具は、医師が持つメスと同じように、その資格と、正当な目的を持つ者だけが、持つことを許された、専門的で、そして、危険な道具なのです。