車のドアに、キーを閉じ込めてしまう、いわゆる「インロック」。そんな、絶望的な状況に陥った時、駆けつけてくれた、JAFの隊員や、鍵屋の技術者が、驚くほど、あっさりと、ドアを開けてしまう光景を、見たことがある方も、いるかもしれません。彼らは、一体、どのような「魔法の道具」を、使っているのでしょうか。車の鍵開けに使われる専門道具は、車種や、そのロック機構によって、使い分けられますが、主に、二つの系統に大別されます。一つは、「鍵穴(シリンダー)」から、直接アプローチする、伝統的な方法です。これは、住宅の鍵開けと同じく、「ピッキング」という技術を用います。しかし、自動車の鍵穴は、住宅のものとは、内部の構造が異なる、特殊なものが多く、特に、鍵の表面に、波のような溝が彫られた「ウェーブキー(内溝キー)」などは、ピッキングの難易度が、非常に高くなります。そのため、プロは、それぞれのメーカーや、鍵のタイプに、特化した、専用のピッキングツールを、使い分けます。もう一つが、より現代的で、多くの現場で使われている、「ドアの隙間」から、アプローチする方法です。これは、まず、ドアと、ボディの隙間に、傷がつかないように、保護材を差し込み、そこに、ポンプで空気を送り込んで膨らませる、特殊な「エアバッグ(ウェッジ)」を、挿入します。そして、エアバッグを、ゆっくりと膨らませることで、ドアを、数ミリから一センチ程度、安全に、押し広げるのです。そして、その、わずかに生まれた隙間から、先端が、様々な形状に加工された、細くて長い、金属製の「ロッド」や「ワイヤー」を、巧みに差し込んでいきます。そして、車内の、ドアロックのつまみや、集中ドアロックのスイッチを、そのロッドの先端で、直接、押したり、引いたりして、解錠するのです。この方法は、鍵穴を、一切いじる必要がないため、シリンダーを傷つけるリスクがなく、また、比較的、短時間で、作業を完了できる、というメリットがあります。